1991年8月、私は旧ソビエトを旅していた。
日本に帰る、というその前日、
モスクワの様子はすでにおかしかった。
戦車らしきものが街なかに停まっているのである。
それも、1台や2台ではない。
旅の終わりに、しばらく北欧の友人を訪ねていたのだが、
その間にいったい何が起こったのだろう。
町の人に尋ねてみても、
確かな答えは返ってこない。
インツーリストに行ったら何かわかるかもしれない、
と言う期待も丸っきり外れてしまった。
インツーリストは国営の旅行代理店で、
この代理店を通さないことには、
ソビエトを旅行できない仕組みになっている。
旧ソビエト時代にこの国を旅行するには、
かなりの制約がついてまわった。
自由に旅するなど、叶わぬ夢だったのだ。
何が、どう不便かを語り始めたらきりが無いので、
ここでは省いてしまうが、
とにかく面倒、時間がかかる、非合理的なのだ。
街の情報を仕入れるはずのインツーリストで
私が仕入れた情報は「あなたの飛行機は、4時間後に
離陸します」というショッキングなものだった。
「そんなはずないわ、私は明日モスクワを発つ飛行機
を予約してあるのよ」
とバウチャーを見せた。
バウチャーは代金を既に支払ったことを証明するもので、
これを提示することによって、
初めて航空券を手に入れることができる。
つまり、旅行代金を日本で払わせているにも関わらず、
航空券そのものを出発の2日前以降にしか手渡さない
仕組みになっているのである。
新潟からハバロフスクに入り、
シベリアの東から西を目指した私は、
ハバロフスクのインツーリストで次の目的地、
イルクーツクまでの航空券を受け取り、
イルクーツクで、さらに次の目的地までの
航空券を受け取り、と移動のたびに
インツーリストのお世話になった。
「確かに、そうねえ。でも、これは何かの間違いだわ。
あなたの航空券はこれだもの」
確かに、私の名前が打ち込まれている。
「ちょっと待ってよ。
このバウチャーには今日のホテルの予約と
その支払いの証明だってなされているのよ。
今日モスクワを発つ人のホテルをおさえる必要が
あったわけ?
そちらの手違いなんだから、せめてホテル代は
返してくれるんでしょうね?」
つづく・・・
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北キプロスのカルパス半島に生息する野生のロバたち。
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